やわらかアニマロイドシリーズ vol.3

ゲルの変形をコントロールして『成長』させる「ゲルフラワー/ゲル海藻」

ソフトマシンの技術概要
ゲルは水を吸ったり、油を吸ったり、組成を調整することで異なる機能性を発現することができます。この技術はゲルの膨潤過程による変形をゲルの構造を制御する『4Dゲル』を生成し、花や海藻などの植物のような成長を表現するものです。UV光で重合反応を示すゲルは、シリコーンモールドにプレゲル溶液を満たし、UV照射することで形作ることができます。この事例では、親油性ゲルと親水性ゲルにそれぞれ異なる形をもたせて一体化させたり、ゲルが曲がる方向を決定できるシリコーンモールドと、空気の加圧により吐出する方法を組み合わせて、花びらのように咲いては散ったりする演出や、混合溶液中の特定の溶液だけを吸い上げて成長する海藻を造り上げています。この技術は一種の環境センサーとしても期待でき、同じ形状でも、置かれる溶液環境によっては最終的に変形する形状が異なるため、何の液体が多く含まれていたのかを形から判断することもできます。

このモデルはソフトマター由来の新しいコミュニケーション媒体『やわらかアニマロイド』のひとつとして開発され、社会実装されることをミッションとして掲げています。また、この技術は特願2021-165993で出願されており、主要な実施例のひとつとして報告されています。日本科学未来館の公式Twitterの方でも映像(こちら)が公開されています。


ソフトマシン『ゲルフラワー/ゲル海藻』の特徴

変形方向を決定する溝があるシリコーンモールドと空圧吐出
『ゲルフラワー/ゲル海藻』はシリコーンモールドにプレゲル溶液を蠕動ポンプで送り出し、UV照射で硬化後にシリンジからの加圧で外へと吐出することで実現します。重要となるのがシリコーンの吐出部に作られている溝です。溝を作ることでゲルの変形を制御でき、異なる種類のゲルを一体化させるときにはその溝と溝以外を別々のゲルで硬化させることで作ることができます。溝はFDM方式3DプリンターでPLAフィラメントの積層により造形します。造形した溝モデルを空洞になるようなシリコーン硬化用の型も一緒に作成し、シリコーンを充填することで溝つきの4Dゲル吐出用アタッチメントを作り出せます。しかし、溝による凹凸ができる4Dゲルは蠕動ポンプからの押し出しだけでは、シリコーンアタッチメントとゲルが引っかかり、外まで吐出することができません。そこでこの技術は空圧による押し出しのアシストを行うことで、引っかかりやすいゲルでも難なく吐出することができます。もちろん、UV照射を停止して、空圧だけかける場合はゲルが排出されることになり、新しいプレゲル溶液に切り替えて、機能性の異なるをまた4Dゲルとして『生やし始める』ことが可能となっています。

ゲルによる溶液の吸い上げ
ゲルの変形を決定づけるのは、『膨潤』です。この技術は親油性ゲルと親水性ゲルを併用することで水と油を吸い上げることができます。この性質を利用すると溶液中の特定の液体のみを除去するような装置としても利用できます(例えば油と水の混合液から水だけを吸収するなど)。少しばかりの例外として、親油性ゲル(ここではOctadecylゲル)に関しては、厳密には油だけを吸い上げるわけではなく、水も少しだけ吸収します。いずれにしても、このゲルの性質を理解していれば。この技術はある流体環境から不純物を除去することや、変形した形状からどの類の液体が含有されていて、どの程度除去されたのかまでを理解できるセンサーとしても捉えることができます。


BOM

作業時間

10分程度:ひとつのゲル海藻を生成するまでにかかる時間

材料

ゲルフラワー:DMAAmゲル
ゲル海藻:Octadecylゲル(茎部)、DMAAmゲル(葉部)

装置
FDM方式3Dプリンター(シリコーンモールド作成用)

部品
アクリルケース(土台)
蠕動ポンプ(プレゲル溶液送流用)
シリコーンチューブ(外径4mm、内径2mm、プレゲル溶液送流用)
シリンジ(4Dゲルの空圧吐出用)
365nm UVライト(ハンディタイプ)


期待できる「やわらか」サービス

やわらかアニマロイド(観賞用植物)
咲いて散るゲルの繰り返しを演出することで、まるで植物のような生命を感じるやわらかアニマロイド。

やわらか環境センサー
流体の不純物除去と含有調査をする装置として。

やわらかアクチュエータ
必要な変形と長さを即座に生成できるソフトアクチュータ。


やわらかアニマロイドシリーズとは?

やわらかアニマロイドシリーズは柔らかい材料や構造を最大限活用して、「何か知的に動きそうな柔らかいモノ」を体現するプロトタイプです。何か動くものというとロボットや機械を想像しがちですが、このシリーズは先入観からくるロボット開発は一旦考えず、とにかくソフト材料や構造、時には機械学習などの技術も「やわらかく」集約させる研究を「やわらかアニマロイド」と呼んでいます。

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