ソフト材料と3Dプリンターで作る高精度な食感識別装置

異なる材料に埋め込まれたフレキシブルセンサーとエンドエフェクタによる咀嚼動作で食感が判る新装置「Gel Biter」

ソフトマシンの技術概要
進歩を続ける食品開発の分野において、食感の評価をどうするかは、常に議論されている重要な話題です。食感は個人差が大きく、同じ食品でも人によって全く別の食感に感じ方に捉えられてしまうことが多々あります。そこで私たちが開発したソフトマシンは、客観的に、いつも同じ食品を特定の食感として評価する装置「Gel Biter」です。Gen Biterは人と同じように食品を咀嚼し、エンドエフェクタに埋め込まれたソフトセンサーで読み取ったデータを学習することで食感の認識を行います。ポイントは複数の種類の材料に埋め込まれたセンサーがひとつの食感を異なる視点から観測することです。Gel Biterはこの方法による観測データがその食感を識別に足る十分な情報量をもっていることを明らかにしました。
この装置はソフトマシン開発コアメンバーが開発し、その成果を学会等で公表しています。柔らかアニマロイドシリーズのひとつとして、またソフトマター由来の新しい食感識別装置として社会実装されることをミッションとして掲げています。
論文情報はこちら
https://link.springer.com/article/10.1007/s10015-022-00814-2
Kosuke Hirose, Ikuma Sudo, Jun Ogawa et al., Gel Biter: food texture discriminator based on physical reservoir computing with multiple soft materials. Artificial Life and Robotics volume 27, pages674–683 (2022)
ソフトマシン『Gel Biter』の特徴


柔らかさの異なる3つの材料
『Gel Biter』は柔らかさの異なるシリコーン、ゲル、PLAに圧電センサを埋め込んだ基盤を上下顎の面および舌として配置しています。このセンサー配置の目的はエンドエフェクタの開閉動作を咀嚼に見立てており、人が歯と歯肉そして舌で複合的に食感を認識している様子を模倣することにあります。異なる材料に埋め込まれたセンサーは、食材と3Dプリントされた歯が接触する力学的な作用を材質に応じた異なる具合に伝播された情報(データ)として感知します。このデータを例えばLogistic Regressionのような分類学習に適用することで、Gel Biterは異なるお菓子の質感から同じお菓子の個体差までを識別しうることがわかっています。
ソフトマターの物理レザバー計算
『Gel Biter』が高い識別精度を実現できたのは、マルチソフトマター型物理レザバー計算という方法を採用したことに起因します。物理レバザー計算は外部からの入力が、実際のモノ(水や身体)を経由して計算され、その結果が出力としてセンサーから取得でき、そのセンサー値を機械学習することで特定のタスクに対する学習精度が向上するという一面をもっています。つまり柔らかい身体は入力を複雑に処理することで、出力から高い計算性能が導出できる、という事例の報告数が年々増加してきています。『Gel Biter』は複数の柔らかい身体から同時に接触を観測することで、物理レザバー計算の入力の幅を拡張しています。
BOM
作業時間
1週間程度:エンドエフェクタの作成(48時間)・ロボット制御
材料
口腔模倣エンドエフェクタ
上下顎:米国保健福祉省の国立衛生研究所が提供する下記のモデルデータを活用.
【上歯】:PLAフィラメント・FDM方式の3Dプリンター
https://3dprint.nih.gov/discover/3dpx-003002
【下歯】:PLAフィラメント・FDM方式の3Dプリンター
https://3dprint.nih.gov/discover/3dpx-003003
センサーの埋込基板
上顎:シリコーン樹脂(EcoflexTM00-30)
舌: Wizard Gel – 自己修復性ポリマーゲル(ユシロ化学工業株式会社様の提供)
下顎:PLAフィラメント
センサー
ピエゾフィルムセンサー(Digi-Key 223-1315-ND)
装置
ViperX 300 Robot Arm – Trossen Robotics
部品
マスキングテープ(センサーの簡易被膜用)
導電性接着剤(センサー電極と導線の接着用)
ADコンバーター(ADS1115)
Atom Matrix(ADCとI2C通信)
センサー処理用PC(要:センサー読み取り用コード)
期待できる「やわらか」サービス
やわらか食品マッピング装置
高精度な食感識別を通じて新食品の食感をマッピングまたは評価できる。
やわらかランチメイト
コミュニケーション能力を実装すれば、パートナーロボットとして食事を楽しむ未来も想像できる。
やわらかアニマロイドシリーズとは?
やわらかアニマロイドシリーズは柔らかい材料や構造を最大限活用して、「何か知的に動きそうな柔らかいモノ」を体現するプロトタイプです。何か動くものというとロボットや機械を想像しがちですが、このシリーズは先入観からくるロボット開発は一旦考えず、とにかくソフト材料や構造、時には機械学習などの技術も「やわらかく」集約させる研究を「やわらかアニマロイド」と呼んでいます。
