やわらかアニマロイドシリーズ vol.2

ソフトセンサーから創り出す、知恵の象徴「Model: Owl」

ソフトマシンの技術概要
知恵と学問の象徴的な存在、フクロウ。フクロウを題材に『本当に賢い』フクロウモデルを創るにはどうすれば良いのでしょうか? この事例は柔らかい身体と柔らかいセンサーを掛け合わせて、柔らかいフクロウに高度な知能を実装する技術です。 やわらかアニマロイドシリーズ vol.2「Model: Owl」は石膏用3Dプリンターで弾性が異なるソフト材料を成形し、内部に4枚の圧電フィルセンサーを内蔵し、識別学習を組み合わせることで誕生した複雑な計算モデルを必要とせずに高度な接触部位識別能力を実現した二対のやわらかフクロウです。この技術は、触るだけで触った相手の情報を見抜く、非言語コミュニケーション媒体のひとつで、相手に生じている触覚的なトラブルをいち早く検出できるAIとしても期待できます。
このモデルの寸法はW150mm H220mm D150mm で、2種類のシリコーン『EcoflexTM00-30』、『EcoflexTM00-10』を用いており、ソフトマシン開発コアメンバーと株式会社スタジオミダス様との協力で開発されました。ソフトマター由来の新しいコミュニケーション媒体として社会実装されることをミッションとして掲げています。
論文情報はこちら
Ikuma Sudo, Jun Ogawa et al., Local Discrimination Based on Piezoelectric Sensing in Robots Composed of Soft Matter with Different Physical Properties, Journal of Robotics and Mechatronics, Vol.34 No.2 pp. 339-350, doi: 10.20965/jrm.2022.p0339
ソフトマシン『Model: Owl』の特徴


柔らかさの異なる2つのソフトマター
『Model: Owl』は二体がそれぞれ異なる弾性をもっています。この弾性は30kPa程度のわずかな差です。なぜ異なる柔らかのフクロウにしたのでしょうか、その理由は『柔らかさのわずかな差が、センサー信号の識別学習にどのような影響を及ぼすか?』を明らかにするためでした。結果として、柔らかい、というだけで『Model: Owl』はほぼ100%に近い識別精度を学習できることが明らかになっています(ここではLogistic Regressionという手法を適用しています)。柔らかさに違いにより最適な学習パラメータの分布もわずかに異なっており、ソフトセンサーのAI学習は媒介とするボディの柔らかさにも少し依存していることが明らかになっています。つまむ、つつく、撫でるといった短時間のモーションによる部位識別は若干硬いソフト材料の方が適しているようです。
ソフトマターの物理レザバー計算と圧電フィルムセンサー
『Model: Owl』が高い識別精度を実現できたのは、物理レザバー計算という方法を採用したことに起因します。物理レバザー計算は外部からの入力が、実際のモノ(水や身体)を経由して計算され、その結果が出力としてセンサーから取得でき、そのセンサー値を機械学習することで特定のタスクに対する学習精度が向上するという一面をもっています。柔らかい身体は入力を複雑に処理することで、出力から高い計算性能が導出できる、という事例の報告数が年々増加してきています。『Model: Owl』も同様で、ソフトマターの身体、そして接触を鋭敏に感知する圧電フィルムセンサーを組み合わせることで、物理レザバー計算を実装しています。
BOM
作業時間
1週間程度:2対のModel: Owlの造形
材料
全身
シリコーン樹脂(EcoflexTM00-30)
シリコーン樹脂(EcoflexTM00-10)
センサー土台(六角柱)
ポリ乳酸樹脂(PLA)
装置
3D Systems ProJet 460 (CJP 3Dプリンター)
FDM方式3Dプリンター(センサー土台作成用)
部品
マスキングテープ(センサーの簡易被膜用)
圧電フィルムセンサー(Digi-Key 223-1315-ND)
導電性接着剤(センサー電極と導線の接着用)
ADコンバーター(ADS1115)
Atom Matrix(ADCとI2C通信)
センサー処理用PC(要:センサー読み取り用コード)
期待できる「やわらか」サービス
やわらかペットロボット
柔らかい身体と触覚を通じたコミュニケーションを実現するやわらかアニマロイド。
やわらか医療診断
言葉で表現できない触覚のトラブルを検出(小児診断にも期待できる)。
やわらかアニマロイドシリーズとは?
やわらかアニマロイドシリーズは柔らかい材料や構造を最大限活用して、「何か知的に動きそうな柔らかいモノ」を体現するプロトタイプです。何か動くものというとロボットや機械を想像しがちですが、このシリーズは先入観からくるロボット開発は一旦考えず、とにかくソフト材料や構造、時には機械学習などの技術も「やわらかく」集約させる研究を「やわらかアニマロイド」と呼んでいます。
